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最高裁判所第二小法廷 昭和23年(オ)21号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

本件上告理由は別紙記載のとおりであつて、これに対する判断は次のとおりである。

第一点について。

本件のごとき参議院議員の当選訴訟を裁判するには、裁判所は、検察官を口頭弁論に立会わしむべきことは、参議院議員選挙法第七三条、衆議院議員選挙法第八五条の規定するところである。しかし、これは、かくの如き訴訟については、検察官に対し、公益の弁護者として、その意見を開陳する機会を与えんとする法意に出でたものであつて、検察官が口頭弁論に立会わなければ、審理裁判をすることができないという趣旨ではない。従つて、裁判所が、検察官に対して、口頭弁論の期日を通知し、これに立会の機会を与えた以上、現実に検察官が口頭弁論に立会わなかつたとしても、それがために裁判の違法を来すことはないのである。本件において、所論の口頭弁論期日に、検察官が立会わなかつたことは上告人主張のとおりであるけれども、本件は昭和二三年一月一五日の口頭弁論期日において、判事の更迭に基づき、弁論の更新が行われているのであつて、右期日について原審が検察官にその通知をしたことは、当裁判所が別に職権に因り調査したところにより明白であり、其後の期日には検察官が現実に立会つていることは記録上明らかである。弁論更新前の期日に関しては、今日、検察官立会の有無を論議する必要のないことは勿論である。されば論旨は理由がない。

第二点及び第四点について。

昭和二二年勅令第一号第四条によつて、覚書該当者と指定せられた場合、その指定の効力は指定の時以後について発生するものであつて、その以前にさかのぼつて効力を生ずるものでないことは同勅令第三条、第五条の規定に徴し、疑を容れぬところであるが、このことは同勅令第六条の場合においてもまた、同様に解すべきものであることは、既に、当裁判所の判例とするところである。(昭和二三年一月一七日言渡、同二二年(オ)第一七号事件第二小法廷判決)これに反する論旨は採用することはできない。すなはち、右覚書該当の指定を受けたものは、立候補前においては、公職に関する公選の候補者となることはできない。既に立候補した後に指定を受けたときは、その時以後候補者を辞したものとみなされる。さらに、その選挙において当選決定した後に覚書該当の指定を受けたときは、-このときは既に候補者ではないのであるから、第六条の適用を受ける余地はなく、同第三条に従つて-指定の時以後当選によつて得た公職から除去される効果を発生するのである。本件参議院議員選挙において、被上告人が当選人と決定せられたのは、昭和二二年四月二三日であり、同日その旨の告示がせられ、越えて五月一日、中央公職適否審査委員会において、被上告人を覚書該当者と決定したものであることは、原判決の確定するところであるから、被上告人が覚書該当者と指定せられたのは五月一日以後であること、すなわち、被上告人の当選決定の後であることは、おのずから明らかである。しかも該指定の効力は既往に遡らないものであることは前段説明のとおりである。そもそも選挙訴訟は、選挙会が当選人を決定した、その決定の効力を争い当選人と決定せられた者の当選の無効であることを主張する訴訟であるから、当選人と決定せられた以後に生じた事由、しかもその効力の既往に遡及しない事由に基づいて選挙会の決定を争い当選の無効を主張することは許されないものといわなければならぬ。すなわち、原判決が上告人主張にかかる覚書該当指定の事由は、以て本件当選無効の理由とすることはできないと判示したのは正当である。尚論旨は、本件覚書該当の指定は、公選における候補者たる資格においてなされたものであるから、たとえその指定は当選告示の後であつても、結局、候補者たる資格のないものの当選となるのであつて、その当選は無効であると主張するけれども、本件の資格審査は、たまたま、被上告人が参議院議員として立候補の機会に行われたというに過ぎないのであつて、その審査の結果に基づいてなされた指定の効力は、他の場合、すなわち現に公職にあるもの、又は公職につこうとする者が、審査を受ける場合とすこしも異なるところはないのである。ただ選挙中に指定の行われた場合は、候補者を辞したものとみなすというに過ぎないのであつて、候補者の立場において審査を受けたからといつて、当選決定の後においても、あるいは既に議員たる資格を得た後においても、遡つて被選挙無資格者となり、その当選までも無効とする趣旨でないことは明らかである。(所論甲第三号証に被上告人氏名の頭書として参議院議員立候補者と記載されてあるのも、被上告人が議員候補者の立場において審査を受けたことを表明するに過ぎないのであつて、右の記載は何等特別の法律上の効果をもつものではないのである)以上のごとく、本件覚書該当の指定は被上告人の当選決定の後であり、該指定の効力は既往に遡ることなく、従つて、該指定は本件当選の効力を左右するものでないとすれば、それだけで本件当選訴訟の理由のないことは明らかなのであつて、当選訴訟において訴因となるべき事実は、当選告示の前に生じたものに限るかどうかの論点は、畢竟本件争訟を断ずるについては無用の論であつて、この点に関する論旨も本件上告の理由としてこれをとり上げるに値しないのである。(その他の判決理由は省略する。)

以上のごとく、本件上告は理由がないから民事訴訟法第三九六条、第三八四条、第九五条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

右は裁判官全員一致の意見である。

(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 塚崎直義 裁判官 栗山茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎)

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